孤高のギタリスト、ジェフ・ベック。その音は「ギターが歌っている」とまで称され、ジャンルの垣根を越えた革新性と表現力で、世界中の音楽ファンを魅了してきました。2023年に惜しまれつつこの世を去った今、改めてその偉大さに触れたいという声が高まっています。
本記事では、ジェフ・ベックのキャリアを代表する名曲10選と、音楽性の進化をたどれる名盤を厳選して紹介します。
目次
1.ジェフ・ベックの音楽キャリアを彩る名曲10選
ジェフ・ベックは、やはり一言では語りきれないギタリスト。
ここでは、その唯一無二のキャリアを彩る名曲たちを、時代を追いながら10曲に厳選してご紹介します。
(1)哀しみの恋人達(Cause We’ve Ended as Lovers)
哀しみの恋人達(Cause We’ve Ended as Lovers)は、スティーヴィー・ワンダー提供のバラードを、ジェフ・ベックが泣きのギターで再構築した名インストです。
ピッキング・ハーモニクスやボリューム奏法などの多彩なテクニックが織り込まれ、情感とテクニカルなギター奏法が共存する圧巻の一曲です。ライブでも定番として演奏され、多くのギタリストに影響を与えました。
収録アルバム | 『Blow by Blow』 |
リリース | 1975年3月 |
(2)フリーウェイ・ジャム(Freeway Jam)
ジェフ・ベックの代名詞ともいえるインスト曲です。ワンコードに乗せて繰り出されるのは、表現を追求しながらも極めて緻密なギタープレイ。シンプルな構成だからこそ光る、そんな真骨頂が詰まっています。
収録アルバム | 『Blow by Blow』 |
リリース | 1975年3月 |
(3)スキャッターブレイン(Scatterbrain)
スキャッターブレイン(Scatterbrain)は変拍子(9/8拍子)を取り入れた、ジェフ・ベックのテクニカル面が炸裂するインスト曲です。フュージョン/クロスオーバーの先駆けとしても高く評価されています。スリリングな構成と鋭いプレイの応酬は、まさに音のカオスを制する妙技です。
収録アルバム | 『Blow By Blow』 |
リリース | 1975年3月 |
(4)ホエア・ワー・ユー(Where Were You)
ホエア・ワー・ユー(Where Were You)では、音程やニュアンスを巧みに描くジェフ・ベックの芸術性が特に際立ちます。1989年発表以降、ライブでたびたび披露され、その美しさと緊張感に息を呑む一曲。ピッキングとボリューム奏法、アームの連携が生む歌うギターの極致です。
収録アルバム | 『ギター・ショップ』 |
リリース | 1989年10月 |
(5)トゥー・マッチ・トゥ・ルーズ(Too Much To Lose)
トゥー・マッチ・トゥ・ルーズ(Too Much To Lose)は、哀愁を帯びたメロディが印象的な、ヤン・ハマー作曲のバラード系インストです。アルバム『There & Back』収録曲で、ジェフ・ベックがその繊細なギタートーンで情感豊かに彩っています。音数を抑えた表現だからこそ、フレーズの一音一音が胸に響く名演です。
収録アルバム | 『There & Back』 |
リリース | 1980年6月 |
(6)ベックス・ボレロ(Beck’s Bolero)
ベックス・ボレロ(Beck’s Bolero)は、ジミー・ペイジ作曲による、ジェフ・ベックのデビューソロ曲にしてロック・インスト史に残る名作です。クラシックのボレロ形式にしつつ、ミステリアスかつ重厚な展開が光ります。レコーディングにはジミー・ペイジやキース・ムーンらも参加し、伝説的セッションとして語り継がれています。
収録アルバム | 『Truth』 |
リリース | 1968年7月 |
(7)グッド・バイ・ポーク・パイ・ハット(Goodbye Pork Pie Hat)
グッド・バイ・ポーク・パイ・ハット(Goodbye Pork Pie Hat)はチャールズ・ミンガス作の名ジャズバラードを、ジェフ・ベックが繊細かつ深い表現でカバーした一曲です。ボリューム奏法やハーモニクス、アーミングを駆使した泣きのトーンが、ジャズとロックの境界を超えた静かに胸を打つ名演です。
収録アルバム | 『Wired』 |
リリース | 1976年5月 |
(8)レッド・ブーツ(Led Boots)
レッド・ブーツ(Led Boots)は重厚なドラムとファンキーなクラヴィネットに乗せて、ジェフ・ベックのギターが咆哮する攻撃的なインスト曲です。アルバム『Wired』(1976年)を代表する1曲で、ミドルトンのキーボードとの緊張感ある掛け合いも聴きどころ。ロックとファンクを融合させた、ジェフ・ベックならではのグルーヴが炸裂します。
収録アルバム | 『Wired』 |
リリース | 1976年5月 |
(9)ブランケット(Blanket)
ブランケット(Blanket)は、2000年作『You Had It Coming』に収録された、イモージェン・ヒープとの共演による美麗なバラードです。浮遊感のあるボーカルと、ジェフ・ベックの繊細なギターが溶け合い、静謐ながら深い情感を湛えた1曲です。
収録アルバム | 『Performing This Week: Live at Ronnie Scott’s』(ライブ盤) ※「Blanket」はスタジオアルバム未収録ですが、2009年リリースのライヴ盤『Live at Ronnie Scott’s』での共演が映像・音源として公式に残されています。 |
リリース | 2009年 |
(10)アンビシャス(Ambitious)
アンビシャス(Ambitious)は、アルバム『Flash』(1985年)の幕開けを飾る一曲です。打ち込み主体のポップなサウンドに戸惑うファンも多い中で、ギターソロではアームとフィンガリングを組み合わせた新しいアプローチが光ります。異色作の中にも確かにジェフ・ベックらしさを感じられます。
収録アルバム | 『Flash』 |
リリース | 1985年7月 |

ひとまず代表的な10曲をピックアップしました!
2.音楽性の進化をたどる!ジェフ・ベックの名盤ガイド
ここでは、彼の代表的なスタジオ・アルバムを中心に、その音楽的変遷をたどります。
ブルース、ジャズ、フュージョン、エレクトロニカ…ジャンルを超え、常に「ジェフ・ベックであること」を貫いてきた名盤の数々を、厳選してご紹介します。
(1)『Truth』(1968年)|ハードロックの源流を築いた衝撃のデビュー作

『Truth』は、1968年にリリースされたジェフ・ベックのソロ名義デビュー作であり、ロッド・スチュワートの初アルバムボーカル作品としても知られる1枚です。
ハードロックの源流とも言える重厚なサウンドは、のちのロックシーンに大きな影響を与えました。キース・ムーンやジミー・ペイジら豪華ゲストが参加し、初期ベックの爆発力が詰まった原点的アルバムです。2005年盤にはボーナストラック8曲を追加収録しています。
1 | Shapes Of Things |
2 | Let Me Love You |
3 | Morning Dew |
4 | You Shook Me |
5 | Ol’ Man River |
6 | Greensleeves |
7 | Rock My Plimsoul |
8 | Beck’s Bolero |
9 | Blues Deluxe |
10 | I Ain’t Superstitious |
11 | I’ve Been Drinking |
12 | You Shook Me |
13 | Rock My Plimsoul |
14 | Beck’s Bolero |
15 | Blues Deluxe |
16 | Tallyman |
17 | Love Is Blue (L’Amour Est Bleu) |
18 | Hi Ho Silver Lining |
(2)『Blow by Blow』(1975年)|フュージョンとギター表現の極致!ギターが歌う傑作

『Blow by Blow』は、初のソロ名義作にして、全米チャート4位を記録した本作は、時代を超えて愛され続けるジェフ・ベックというジャンルの原点です。
ジョージ・マーティンのプロデュースのもと、即興性と構成美を両立させたサウンドは、ジェフ・ベックならではの表現世界へと昇華されています。
1 | 分かってくれるかい |
2 | シーズ・ア・ウーマン |
3 | コンスティペイテッド・ダック |
4 | エアー・ブロワー |
5 | スキャッターブレイン |
6 | 哀しみの恋人達 |
7 | セロニアス |
8 | フリーウェイ・ジャム |
9 | ダイヤモンド・ダスト |
(3)『Wired』(1976年)|鋭さとグルーヴが融合したテクニカル・インストの名盤

1976年発表の『Wired』は、『Blow by Blow』と並び称されるフュージョン期の傑作です。ナラダ・マイケル・ウォルデンやヤン・ハマーらとのセッションから生まれるスリリングな演奏が光ります。「レッド・ブーツ」や「蒼き風」など、鋭さとグルーヴが交錯するダイナミックなインストが満載。よりクロスオーヴァー色を強めた、完成度の高い1枚です。
1 | レッド・ブーツ |
2 | カム・ダンシング |
3 | グッドバイ・ポーク・パイ・ハット |
4 | ヘッド・フォー・バックステージ・パス |
5 | 蒼き風 |
6 | ソフィー |
7 | プレイ・ウィズ・ミー |
8 | ラヴ・イズ・グリーン |
(4)『There & Back』(1980年)|叙情とスピード感が共存する、円熟のフュージョン・ロック

『There & Back』は『Wired』から4年ぶりに発表された、ジェフ・ベックの円熟を感じられる名盤です。ヤン・ハマーとの最後の共演と、トニー・ハイマス&サイモン・フィリップスという新たな布陣によって、叙情性と躍動感が高次元で融合。「スター・サイクル」などライブ定番曲も収録された、ジャズ・ロック期の集大成的アルバムです。
1 | スター・サイクル |
2 | トゥ・マッチ・トゥ・ルーズ |
3 | ユー・ネバー・ノウ |
4 | ザ・パンプ |
5 | エル・ベッコ |
6 | ザ・ゴールデン・ロード |
7 | スペース・ブギー |
8 | ザ・ファイナル・ピース |
(5)『Flash』(1985年)|異色でもブレないベック節、挑戦と再会のアルバム

『Flash』は、ナイル・ロジャースらを迎えたポップ色の強い歌ものアルバムです。自身によるヴォーカル曲や、16年ぶりとなるロッド・スチュワートとの共演も話題に。異色作ながら、グラミー受賞曲「Ambitious」などをはじめ、新たな表現の追究が感じられる挑戦的な一枚です。
1 | アンビシャス |
2 | ゲッツ・アス・オール・イン・ジ・エンド |
3 | エスケイプ |
4 | ピープル・ゲット・レディ |
5 | ストップ、ルック・アンド・リッスン |
6 | ゲット・ワーキン |
7 | エクスタシー |
8 | ナイト・アフター・ナイト |
9 | ユー・ノウ、ウィ・ノウ |
10 | ナイト・ホーク |
11 | バック・オン・ザ・ストリート |
(6)『Guitar Shop』(1989年)|完全インスト復帰!ストラト1本で語る“音の彫刻”

『Guitar Shop』は、全編インストゥルメンタルに回帰しながらも、それまでの三部作とは一線を画すギターで語る世界を切り拓いた作品です。ピックを使わず、指とアームのみで音色を操るスタイルは、この作品で円熟期へ。ハイマスとボジオとの濃密なセッションの中、ジェフ・ベックはギターを自らの声として響かせています。
1 | ギター・ショップ |
2 | サヴォイ |
3 | ビハインド・ザ・ヴェイル |
4 | ビッグ・ブロック |
5 | ホエア・ワー・ユー |
6 | スタンド・オン・イット |
7 | デイ・イン・ザ・ハウス |
8 | トゥー・リヴァーズ |
9 | スリング・ショット |
3.なぜ「ギターが歌う」と称されるのか?ジェフ・ベックの革新性

「ギターが歌う」それはジェフ・ベックを語るうえで、よく使われる表現のひとつです。
卓越したテクニックや緻密な音色コントロールもさることながら、言葉でなくても、ギター1本で喜びや悲しみ、怒りまでも語ることができる。それがジェフ・ベックの音楽の真髄です。
ここでは、彼の革新性を支えてきた3つの視点から、「ギターが歌う」と称される所以に迫ります。
(1)指弾き・ヴィブラート…タッチだけで語る音色表現の職人技
ジェフ・ベックがピックを使わず、指先で弦を繊細に揺らすことで、微細なニュアンスや音の起伏を自在に操り、まるで人の声のようなヴィブラートと抑揚を生み出します。
加えて、トレモロ・アームを駆使したピッチ変化は、叙情と緊張を行き来するような「語り」を完成させます。ギターの可能性を拡張しつづけたジェフ・ベックのテクニックは、まさに音色を声に変える革新です。
(2)型にとらわれないスケール感と即興性の妙
ジェフ・ベックの即興演奏は、スケールなどの枠を飛び越え、まるで感情そのものを音に変換するかのようでした。ライブ音源を聴いて耳コピしようとすれば、絶対音感がない限り、どこを弾いているのかわからず戸惑うこともあるでしょう。
譜面では説明できない間の妙や沈黙すら芸術になる表現力に、聴く者はいつしかジェフ・ベックの世界に引き込まれます。
(3)ロックもジャズもエレクトロも、自分の表現に変える柔軟さ
ジェフ・ベックは、初期のブルース・ロックからスタートし、ジャズ・フュージョン、ファンク、さらにはエレクトロニカやクラシック的なアレンジまでを自在に取り込み、その都度ジェフ・ベックの音楽として昇華させてきました。そうした表現の追究は生涯にわたって継続しています。
たとえば『Wired』や『There & Back』ではジャズ・フュージョンとの親和性を見せつけ、『You Had It Coming』ではテクノ~ドラムンベースを意識したビートに大胆に挑戦しています。
4.まとめ:ジェフ・ベックの音楽は技術と魂の結晶である
ジェフ・ベックは、卓越したテクニックと枠に捉われない表現力によって、語る声のようなギターを奏でます。
『Blow by Blow』や『Wired』に代表される名盤の数々、そして「哀しみの恋人達」や「フリーウェイ・ジャム」に象徴される名演は、技術の粋を極めながらも決して技巧に走らず、聴く者の心に直接響く“魂の音”を響かせています。
最後の来日公演は2017年2月7日、73歳のときに行われたあましんアルカイックホールでのステージでした。通算10回以上の来日公演を重ねた彼の姿を、もう生で観ることは叶いませんが、残された音源の中には、今もなお色褪せることのない情熱と創造力が息づいています。
これからも、ジェフ・ベックという唯一無二の存在を感じ続けていきたいと思います。